精密金属加工を手掛ける日本精密(7771)が、需給関連の開示を相次いで発表し、市場の注目を集めています。2026年1月に実施した第三者割当増資の割当先が、当初の保有方針に反して2026年7月以降ほぼ連日株式を売却し続けており、9月16日にはその経過と保有方針等に関する追加のお知らせが開示されました。今回は、財務再建の経緯とあわせて、この需給材料の中身を整理します。
日本精密とはどんな会社か
日本精密株式会社は、東証スタンダード上場の精密金属加工メーカーです。「手のひらロマンで世界を刻む」をコーポレートスローガンに掲げ、腕時計のバンド・ブレスレット等、肌に触れる金属製品の加工技術を強みとしています。かつては中国を主要な生産拠点としてきましたが、近年は「Beyond China」を掲げ、ASEAN地域へのサプライチェーン再構築を進めています。
財務再建の経緯
同社は2019年9月以降、業績低迷と有利子負債依存度の高まりを背景に、取引金融機関から借入金元本の返済条件緩和(リスケジュール)を受けながら財務を運営してきました。その後、事業構造改革・固定費削減・生産性向上策を継続的に実施したことで収益体質が改善し、直近事業年度では営業利益・経常利益・営業キャッシュフローがいずれも黒字化しています。2025年2月28日には主力取引金融機関を含む金融機関団とシンジケートローン契約を締結し、長期にわたったリスケジュール状態を解消、金融取引を正常化させました。もっとも、金融取引正常化後も有利子負債は残存しており、2025年3月期末の自己資本比率は26.1%と低水準にとどまっていました。自己資本比率の考え方については自己資本比率の見方(valuation.trgy.co.jp)もご参照ください。
第三者割当増資の概要
こうした財務基盤の脆弱さを踏まえ、同社は2026年1月30日、第三者割当による新株式発行を発表しました。公募増資・第三者割当増資とは(valuation.trgy.co.jp)で解説されている通り、第三者割当は特定の相手方に新株を割り当てる資金調達手法です。今回の概要は以下の通りです。
- 払込期日:2026年3月6日
- 発行新株式数:1,941,748株
- 発行価額:1株につき103円(直前6か月間の平均株価を基準に算定)
- 調達資金の額:200,000,044円(約2億円)
- 資金使途:成長投資ではなく、金融機関との協議を前提とした借入金の返済に充当。自己資本比率を30%台前半程度まで改善させる狙い
会社側の発表によると、割当先(個人とみられる)は発表当初、取得する株式を中長期的に継続保有する方針であり、短期間での市場売却は想定していない旨を示していたとされています。
割当先による継続的な株式売却
ところが、2026年7月8日頃以降、「第三者割当に係る株式譲渡報告書(新株式)」がほぼ連日にわたって開示される状態が続いています。割当先は、当初表明していた中長期保有の方針とは異なり、株式の一部を市場で売却しており、その理由については、当初想定していなかった資金需要が生じたため、という趣旨の説明がなされているとされます(逐語の開示文言は本記事執筆時点で有料会員限定資料のため未確認)。2026年9月16日には、これまでの売却状況と保有方針等について会社が改めてお知らせする開示(「(開示事項の経過)第三者割当により発行した新株式の発行について、割当先による一部売却及び保有方針等に関するお知らせ」)が行われました。Yahoo!ファイナンスのAI解説では、こうした一連の開示について「株式需給の整理が進む場面」との見方も紹介されています。
株価はどう動いたか・直近の業績
株価は需給関連の材料が断続的に出る中で振れる展開となっており、2026年9月17日には前日比+4.0%の260円まで反発し、売買が活発化しました。一方、業績面では、2026年8月7日発表の2027年3月期第1四半期決算で、売上高が前年同期比+42.3%(約25億円)と大幅に増加しており、財務再建に加えて事業面でも改善が進んでいることがうかがえます。同社は今期中に、2027年3月期を初年度とする新たな中期経営計画「ASEAN ProjectⅢ」を公表する予定とされています(2026年1月時点のIR資料による予定であり、時期が変更される可能性があります)。
投資家として押さえておきたい視点
今回のケースでは、財務再建・業績改善という好材料と、当初の保有方針に反した継続的な売却という需給面の不透明要因が併存している点に注意が必要です。割当先による売却が資金需要を理由にほぼ連日続いている状況は、いつまで・どの程度の規模で継続するのか現時点では見通せません。一般に、株式の追加的な売り圧力が意識される局面では株価が上値の重い展開になりやすい一方、需給要因が一巡すれば株価への影響の受け止め方も変わり得ると指摘する市場参加者もいます。また、1,941,748株の新株発行は既存株主にとって希薄化要因である点や、新中期経営計画「ASEAN ProjectⅢ」の具体的な内容がまだ公表されていない点も、今後の判断材料として注目しておきたいところです。
まとめ
日本精密は、長年のリスケジュール状態を解消し、第三者割当増資による自己資本比率改善と借入金圧縮を進める一方、その割当先が当初の保有方針に反して2026年7月以降ほぼ連日株式を売却するという需給面の課題を抱えています。9月16日の追加開示や、8月発表の大幅増収決算、今期中に予定される新中期経営計画の公表など、材料が重なる局面にあるだけに、財務再建の進捗と株式需給の両面を継続的に確認していくことが大切です。































